朝日新聞記事『「エンゲル係数」44年ぶりの高水準 コメなど「食料インフレ」影響』への明石順平氏のコメントは正しいか? (2026/2/21)

 

 

202626日の朝刊ウェブ版に掲記の記事が掲載された1/。その内容は、総務省の家計調査によると2025年のエンゲル係数が44年ぶりの高水準になったというものである。

 

この記事に対して明石順平氏(弁護士・ブラック企業被害対策弁護団)がコメントを書いていた。要約すれば以下の様な主張である。

l  アベノミクス開始後に食料価格の上昇が始まり、コロナ前の2019年には、アベノミクス開始前の2012年と比較して11.5%も上昇した。

l  アベノミクスによって進んだ円安が最も大きく影響している。

l  円安が加速したため、2022年以降の食料価格の上昇が急速に進み、直近2025年は142.1 。つまり、アベノミクス開始前と比較して42.1%も食料価格が上昇した。

 

典型的な三段論法であり、エンゲル係数が上がったという統計結果(朝日の記事)を捉えて、諸悪の根源はアベノミクスつまり故安倍首相の仕業と言いたかったようである。

 

では彼の論を検証してみよう。まず、彼は記事のエンゲル係数ではなく消費者物価指数(CPI/2)の食料品を取り出して、食料品が「上がった、上がった」といっている。しかし、記事が議論するエンゲル係数は彼が使ったCPIほど上がってはいない。エンゲル係数で言えば、2019年の数字は2012年に比べて9.1%増であり、明石氏が使ったCPI11.5%増より2.4ポイント低い。つまり、記事の論点をすり替えている/3

 

2点目のアベノミクスで円安に誘導されたという主張も正しくない。2008年から2012年にかけて為替は異常な円高となった(2011年と2012年は1ドル80円を切る超円高)。2012年から2020年までの安倍政権下で為替は円安に動いたが、それは2000年から2007年までの元の水準に戻ったに過ぎない(図1参照)。異常な円安となったのはパンデミック以降の2022年からである。

 

では円安がエンゲル係数を上げたかといえば、これもイエスではない。2020年から2013年までの間、エンゲル係数は23%台で安定し、ほとんど変動しなかった。一方、為替は1米ドル80円から125円の間で激変した。この間、図2の赤い四角でプロットした部分を見れば一目瞭然、エンゲル係数と為替の間に相関は見られない。

 

2014年から2021年にかけてエンゲル係数はジワジワと上がり始めたが、その間の為替レートは1米ドル100円台から精々120円の範囲にとどまり、2000年から2007年の水準と変わらない。図2の灰色の三角でプロットした部分から明らかなように、この為替の範囲内では、エンゲル係数は大きくバラツキ、やはり両者の間に相関は見られない。

 

唯一、為替とエンゲル係数の間に強い相関が現れるのは、図2の青い丸でプロットした部分が示すように、2022年から2025年にかけて大幅な円安が起きた時期だけである/4

 

つまり、円安になるとエンゲル係数が上昇するという因果関係が単純に成り立つわけではない。この一年半ほどの間の食料品の値上がりは、朝日新聞の見出しにあるように米の価格高騰の方が大きく影響しているのだろう。何せ2024年夏以降、米価は2倍以上に爆上がりしたのだから。

 

つまり、アベノミクス⇒円安⇒エンゲル係数の上昇⇒貧困化という論法は庶民感情に訴えるであろうが、論理性に欠けるし、定量的にはほとんど成り立たない。

 

最後に、アベノミクスを検証してみよう。アベノミクスの最大の目標は経済回復であった/5。ではどのように経済が動いたのだろうか。確かに、故安倍首相の在任中にエンゲル係数は上昇傾向にあったが、その変化を上回って完全失業率は大きく下落し、有効求人倍率は大きく上昇した(図3参照)。

 

民主党政権下では有効求人倍率が5060%台にとどまり、庶民は必死に職を探した。アベノミクスは完璧ではなかったが、そのような状況から経済を回復させ、失業を減らしたことは紛れもない事実である(失業率が下がるということは経済が良くなったということである)。

 

そして最後に一言、マスメディアは「エンゲル係数の上昇=貧困化」という単純な構図を強調するが、表1にあるように日本の相対的貧困率が2000年以降上昇しているわけではない。庶民感覚としてこのところ食料品の値段が上がったなとは思うが、即それで貧乏になったと思うかは別の話である。東京圏でいえば、食料品の値上がりよりも住宅費の高騰や住宅ローンの金利上昇の方がもっと切実な問題である。経済とは、ある事象がたった一つの変数だけで簡単に説明できるものではない。

 

 

 

/1     https://digital.asahi.com/articles/ASV260FRTV26ULFA005M.html?iref=pc_ss_date_article

/2     Consumer Proce Index

/3     CPIが上昇すれば、その中の食料品部分も上昇するのは当たり前である。全体の中で食料品だけが顕著に上がったという証拠にはならない。この点でCPIの食料品部分の上昇とエンゲル係数の上昇とは全く次元の異なる話しである。

/4     2022年から起きた大幅な円安は日米の金利差による円キャリートレードが主たる原因である。直近では政府債務の対GDP比が230%を超える状況下で高市政権が積極財政を打ち出したことが、さらなる円安と国債金利の上昇を招いている。

/5     三本の矢を柱とする経済政策。三本の矢とは①大胆な金融政策(デフレ脱却を目指し、2%のインフレ目標が達成できるまで無期限の量的緩和を行うこと)、②機動的な財政出動(東日本大震災からの復興、安全性向上や地域活性化、再生医療の実用化支援等に充てるため、大規模な予算編成を行うこと)、③民間投資を喚起する成長戦略(成長産業や雇用の創出を目指し、各種規制緩和を行い、投資を誘引すること)。

 

 

 

 

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