地方に見切りをつける女性達 (2025/3/24)
今朝の日経新聞の記事である—「地方から去る女性 地方から女性が流出し続けている」1/。この記事によれば、昨年の熊本県の女性の転出超過は男性の3倍、栃木県は2.9倍であった。これと似たような記事を読んだ記憶がある。大学で美術を学んだ女性が、地元では一般事務職しか就職の機会がないので、地元富山を捨てて東京に出て行ったという。
女性が地方に見切りを付ける一番の理由は志望する企業(職)がないからである。もう一つの理由として、「男は仕事、女は家庭」という風土があげられる。女は家庭で子育てという時代遅れの旧態依然とした考えは、地方に限らず日本には未だ根強く残っていると言ってよかろう。
日本では急速に老齢化が進み生産人口は急速に落ち込み続けている。それを補うために高齢者と女性に頼る構図が出来上がった。しかし、高齢者については、かつての60歳定年が65歳までの雇用、今や70歳過ぎまで働くという動きになったが、他方、女性が企業の管理職や経営にどれだけ進出しているかと問えば極めて心細い。今もって、女性の役割は非常に軽んじられている。
日本は老齢化と人口減少がもう待ったなしの状況にありながら、社会の対応は極めて遅い。少し視点は変わるが、国会で進みつつある選択的夫婦別姓制度の議論も同じである。経団連や野党がこの制度を推し進めようという強い意見を持っているのに対して、自民党内には根強い反対意見がある。反対する議員が口にする理由は「日本の伝統や家族の絆が失われる」である。
そもそも女性から結婚後も旧姓を名乗りたいという強い意見が出てきた背景には、結婚を機に夫の姓に変わることで、それまで仕事で積み上げてきた経歴が壊されてしまう事にある。とりわけ研究職に携わる女性にとってこの問題は大きい2/。
夫婦同姓の定めは、日本の歴史で見ればたかだか127年前、明治31年(1898年)の旧民法の制定に遡るに過ぎない。それ以前にあった明治9年(1987年)の太政官指令では、妻の氏は「所生ノ氏」(=実家の氏)、つまり夫婦別氏(別姓)とするとある3/。
別姓反対派は日本の伝統や家族の絆と言うが、そもそも日本の家族は母系制にある。万葉集や古今和歌集を読めば分かるように、男が女の家に行く通い婚である。武士の時代になれば、源頼朝の妻は北条政子、足利義政の妻は日野富子であった。
政治と社会制度が急速に進む時代の変化に付いて行けないのであれば、女性が逃げて行くだけである。地方に見切りを付けてそこから逃げ出し、都会で法律上の結婚という形を取らずパートナーと暮らす。
その結果は明らか。加速する地方の衰退とますますの出生率低下、そして社会と経済の衰退である。
1/
日本経済新聞ウェブ版(2025/3/24)
2/
研究者にとって論文数は極めて重要である。姓が変わることにより、過去の論文が別人と取られてしまうことが大きな問題となる。研究者に限らず、対外的に結婚で姓が変わることはしばしば大きなマイナスになる。このため、戸籍上姓が変わっても旧姓を使用することは多い。しかし、便宜上の旧姓の利用は法的な書類を伴う場合は問題を起こす。
3/
法務省ウェブ https://www.moj.go.jp/MINJI/minji36-02.html