トランプ減税法案成立——One Big Beautiful Bill Act (2025/7/5)

 

 

トランプ大統領念願の減税法が74日に成立した。これで2017年のトランプ1で決まった減税が恒久化された。

 

10年間で3.8兆ドルに及ぶ減税を享受するのは裕福層である。米国の所得税の9割は所得で言えば上位20%の層1/が負担しており、減税の恩恵を受けるのはそのような裕福層である。そもそもチップで生活する労働者の3分の1は所得税を払うだけの収入がない2/。低所得者にとって、トランプ減税の恩恵はない。

 

一方、減税法には医療福祉での歳出削減が含まれる。低所得者向けの健康保険メディケードを受け取るには、仕事に就いていることが要件となった。この要件追加により保険を失う者が出ることで、無保険者が1200万人増加すると見られる3/

 

つまり金持ちに優しく、貧乏人に厳しいトランプ減税法により、持てる者と持たざる者がさらに大きく分断されることになる。

 

貧富の差の拡大に加えて、もっと大きな問題は、政権を離れたイーロン・マスクが声高に法案反対を唱えた理由、トランプ減税で米国の財政赤字がさらに拡大することである。

 

2024年の米国の財政赤字はGDP6.7%であった4/。この財政赤字は今後も続く。トランプの関税引き上げで税収増はあるが、財政赤字を相殺するものではない。向こう10年間で数兆ドルの債務が積み上がる。

 

トランプ政権の楽観論はこの減税で好景気がもたらされると言うが、そうはならない。トランプ減税は既に実施済みで、新たな景気促進にはほとんど貢献しない。加えてトランプ関税は消費を押さえ、景気を冷やす。資産の加速度償却による投資の拡大やチップと残業代の不課税化が経済成長に貢献する度合いは僅かにとどまる。

 

財政赤字の拡大は経済成長にマイナスに作用する。公的債務の増大はクラウディングアウト5/を引き起こし、民間の投資コストを上昇させる。政府の債務を削減するには歳出削減(緊縮財政)か増税しかない。それは、2010年代にユーロ圏で起きたソブリン危機が証明済み。

 

ただ、政府にとって財政緊縮や増税のハードルは極めて高い。となれば残す道はただ一つ、ハイパーインフレへの期待である。あっという間に債務残高の実質価値を下げてくれる。これは米国を含めて第二次大戦後に経験した(日本の戦時国債の処理も同様であった)。

 

最後に余談。この財政赤字問題、日本にとって他人事ではない。米国の債務残高はGDP116%であるが、日本はほぼその倍に近い240%。これが急速なインフレを引き起こしても不思議はない。去る521日の10年物長期国債の利回りは1.530%30年物は3.185%にまで上昇し、前日の国債入札は低調に終わった。日本の国債は国内で消化しているので欧州で起きたような債務不履行は起きないと高をくくっていると、とんでもない事になる。ドイツが財政規律に厳しいのは、戦後ハイパーインフレに苦しんだ教訓からである。

 

 

 

 

 

 

1/     課税所得で約12万ドル以上

2/     イェール大学の試算では、減税効果は上位60%の所得層までにしか及ばない。【日経新聞電子版2025/7/5

3/     The Economist July 3rd 2025

4/     財務省 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/a02.htm

5/     国債の大量発行が金利の上昇をもたらし、民間の経済活動を圧迫すること。

6/     NHK NEWS2025/5/23) https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250521/k10014812551000.html

7/      

 

 

 

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