意外なトランプへの期待の高さ (2024/12/15)
先週のフォーブス誌に面白い記事1/があった。次期大統領トランプに対する国民の人気が7年ぶりに高いという内容である。彼は来年1月の就任に向けて、政権の移行作業を進めつつある。これについて、現在、半数の人が彼の移行プロセスを妥当と思っている。
もっとも、この政権移行期でのトランプ支持率は、これまでの大統領、ジョー・バイデン(66%)、バラク・オバマ(79%)、ジョージ・W・ブッシュ(65%)、ビル・クリントン(62%)と比べれば低いし、依然として47%の人がトランプを望ましくないと見ている。7年ぶりというのは、あくまでも2016年のトランプ1に比べればという話である。
トランプへの期待は経済への期待と言ってよいだろう。今回の大統領選挙の結果を見てわかるように、あれほどの裁判を抱え、かつ倫理的に問題があるトランプが最終的にカマラ・ハリスに圧勝した要因の一つに、高いインフレ率に対する不満があった(言うまでもなく、インフレにとどまらず、ラストベルトでの失業問題や不法移民問題への対応も大きな論点であった)。倫理的な理想論という点で民主党の主張はごもっともではあるが、選挙民が日々の生活や現実問題への対応の方が重要と考えても無理はなかったと、私は思っている。
ちなみに経済問題に絞れば、トランプが経済を良くしてくれると思う人は世論調査2/の回答者の39%を占める。この数字はジョージ・W・ブッシュ(29%), ビル・クリントン(20%)、そしてロナルド・レーガン(26%)の政権移行期より高い。
ただし、以上の数字はあくまでも政権移行期での国民の判断であり、実際に政権が動き出した後にどう変わるかは全く別の話になる。トランプが選挙中に口にした関税、とりわけ中国には60%、その他の国には10〜20%、さらには麻薬の流入問題からメキシコとカナダに25%の関税を掛けてやるという話しが本当に実行されれば、米国の経済成長を押し下げることになる3/。もちろん、この関税はトランプ特有の脅かしであり、取引(ディール)のための材料ではあろうが。
この関税を含めた経済問題への対応ばかりでなく、現在進んでいる要職者の任命についても先が見えない部分が多い。トランプ1での経験を含めて、現在名前が上がっている候補者は確実に彼に忠実を尽くす者と見られるが、問題も抱える。
国防総省長官に一度名前が上がった元フォックス・ニュースの司会者であったピーター・ヘグセスはアルコール中毒と性暴力のスキャンダルがある。司法長官候補として名があがったマット・ゲーツ(下院議員)も性的不品行のスキャンダルがあり、パム・ボンディ(元フロリダ州検察長官)に差し替えられた。FBI長官候補に指名されたキャッシュ・パテルと保健福祉長官に指名されたロバート・フランシス・ケネディ・ジュニアも適性が問題視されている。上院が、トランプが指名した候補者を全員了承するかどうかは別問題である(日本のような議員内閣制ではないので、全ての共和党議員が常に大統領の提案を支持するわけではない)。
来年1月からのトランプ2がどう動くかわからない部分は多いが、日本を含めた世界経済、外交、そして安全保障体制に大きな影響をもたらすことだけは間違いなかろう。
1/
Forbes,
Dec 12, 2024
2/
CNN/SSRS世論調査
3/
日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所は、メキシコやカナダに25%の関税を課すとそれが物価上昇や雇用減につながり、米国の2027年の国内総生産(GDP)は1.1%下押しされると試算する。(日本経済新聞ウェブ版 2024/12/13)