落ち込むロシア経済と戦争の行方 (2025/12/13)
ウクライナ侵攻を開始した2022年こそロシア経済はマイナス成長であったが、2023年と24年には欧米の禁輸措置に加わらなかった国々(端的には中国やインド)に石油を輸出することで稼いだ外貨を軍需部門に注ぎ込み、年率4%を超える成長を達成した。この数字をもって、プーチンは欧米の経済成長を軽く越えたと自慢した。しかし、今やその勢いは急速に萎み、2025年の経済成長は年率0.9%に落ち込み、その半面、消費者物価指数は年率9%で上昇すると見られる1/。

2023〜24年の高度経済成長は軍需部門への投資によって達成されたものである。武器弾薬の生産は大きく伸びたが、国民生活に必要な消費財の生産に向かったものではない。政府支出も福祉が削られ、多くの予算が軍事費や動員した軍人への給与と補償に向けられた。
この1年でロシアの石油収入は22%落ち込み、これまでの軍需部門への財政投入の勢いは失速した。海外から資金調達する術のないロシアは、財政の欠損を補うためには、国内の家庭部門から金を借りるしかない。これはインフレを招き、そして増税へと進む。
ではプーチンは落ち込み始めた経済を尻目にウクライナでの戦争を続けるのだろうか。少なくとも今すぐ和平交渉に入るとは思えない。トランプ大統領が提示し、欧州とウクライナが条項修正した和平案に対して、プーチンは関心すら見せなかった。それどころか、ウクライナを支援する欧州に対して、欧州側がロシアに戦争をしかければ対応する準備はできていると警告した。
戦況を見ればほとんど膠着状態である。ロシアはウクライナ東部で前進していると喧伝するが、その速度は極めて遅い。今の速度でドネツク州を完全掌握するにはあと2年掛かるとみられる2/。
今のところ、戦争に対する国民の意見は大半が無関心を装う。モスクワのような大都市に住む市民は兵役に就いたわけでも、戦火を経験したわけでもない。これまで戦争にかり出されたのは、高い報酬と命を引き換えにした貧しい地方部出身の若者達である。
不足するマンパワーを補うために、プーチンがこれまで躊躇っていた徴集令の発動を決断するのかは分からない。しかし、もしそうなれば、都市部に住むロシア人にとっても、この戦争は他人事ではなくなってくる。戦死や負傷した帰還兵が身近な問題となれば、国中が陰鬱な空気に包まれることになる。
そしてプーチンはますます思想と言論の統制を強めるのだろう。
1/ IMF予測 https://www.imf.org/en/countries/rus
2/ BBC News Japan (2025.11.28) https://www.bbc.com/japanese/articles/ce8ny0v0ryno