『潤日(ルンリィー)――日本へ大脱出する中国人富裕層を追う』
舛友雄大 2025年2月 東洋経済新報社
在日中国人は昨年6月末時点で84万人を超えた1/。その数が100万人になるのも遠くないといわれる。
本の題名にある「潤」とは、語の意味は「儲ける」であるが、表記が「Run」つまり「逃げる」となる。潤日なので日本に逃げ出すことを意味する。日本に逃げる中国人の数は、コロナ禍で中国政府がロックダウンを行った頃から増加した。
増大の背景には中国国内の状況悪化がある。余りにも過酷な受験戦争や就職難、日本の割安な不動産投資を通じた資産保全、そして自由な言論空間への渇望の三つが逃避する大きな理由である。
朝日新聞が、日本の大学を目指して多くの中国人が小学生の子供を連れて東京文京区に移ってきている現状を記事にしたのはつい先月末であった2/。小学生ばかりではない。高校生あるいは中国で大学に行けなかった若者も日本を目指す。欧米でなく日本である理由は、朝日新聞の記事が書いているように安い、安全、近い(安・安・近)からだ。
著者はそんな逃避してきた中国人にインタビューを重ね、その裏にある中国で顕在化しつつある問題の現状を語る。今の中国は習近平の独裁体制にあり、体制批判はおろか自由な言論すら出来なくなった。締め付けは今後さらに強まるだろう。潤日する人で、日本の永住権の取得や帰化を考える人は多い。
かつてあった日本への出稼ぎではなく、それなりの資産を持ち、高度人材となり得る中国人が日本に来ることは、日本にとっても多くの利点があると私は思っている。最近、東大の中国人留学生が急増しているという話題をよく目にする。大学院に限れば4~5人に1人ともいう3/。それを揶揄する人がいるが、世界のトップ校を見れば優秀な人材を海外から呼び集めることは常識である(例えばハーバード大の全学生のうち、外国人留学生が占める割合は27%、3割近くに及ぶ4/)。
人口減少のなか、ますます内向き志向になりつつある日本社会を活性化させるには、優秀な外国人が入ることは良い刺激になる。飛鳥や奈良時代に中国や朝鮮半島からやって来た渡来人が日本の国家作りの一助になったことを思えば分かり易い。
1/
出入国在留管理庁 https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00047.html
2/
朝日新聞ウェブ版(2025/4/30;)、同(2025/5/7)
3/
ニューズウィーク日本版(2025/2/26)
4/
Bloomberg
(2025/4/18)