『日銀の限界――円安、物価、賃金はどうなる?』 野口悠紀夫 20251月 幻冬舎

 

 

かつては新自由主義的な市場重視する立場を取る野口氏であったが、リーマンショック以降、市場の自己修正能力への懐疑、金融資本主義の限界、そして格差や経済的不平等への懸念といったリベラルな立場へと変わった。

 

今やそんな彼も御年84歳となった。しかし、鋭い分析と洞察力は衰えない。

 

現在、政治の議論は物価高対策と米不足対策に終始する。夏の参議院選挙を控え、与野党問わず、政策の目玉は代替財源見がないままの減税かバラマキしかない。そこには、生産性の向上によって経済を豊かにし、賃金を上げていくという話は出て来ない。

 

そんなことを頭の片隅において、この本を読んでいくと野口氏の主張は理解しやすい。円キャリートレードのよってもたらされた円安、その円安で企業利益は増加したが、それは単なる為替益に過ぎない。つまり、本質的な生産性の向上で手にした付加価値ではない。その円安で支えられた現在の株高。そんな状況を、彼は「円安カジノ経済」と名付けた。

 

日銀の過ちと責任については、ここでは端折るので、是非、本をお読み頂きたい。

 

野口氏が言いたいことは本の終章に凝縮されている。政治に長期的な成長戦略がなければ、失われた30年はおろか、今後も日本は世界経済の中でズルズルと脱落し続けていく。過去40年を通して日本の産業が変わっていないことを見れば、それは自ずと分かる。

 

日本経済を下支えする産業は自動車産業くらいしかないが、そこでは現在100年に一度と言われる構造変化が起きている。テスラと中国企業が圧倒的にリードする電気自動車の普及である。自動車産業が10年後も日本を支えてくれると思っていたら大きな間違いだ。1990年代までは市場を制覇した電器電子産業は衰退の一途を進み、今や韓国と中国企業が圧倒的な存在感を示す。

 

日本は、失われた30年の間にオールド産業に変わる新しい産業を起こさねばならなかったが、それが出来なかった。一方、米国はオールド産業に変わるIT分野で世界の覇者となった。今や人工知能(AI)の開発では、米国が断トツのトップを走り、中国がそれを追う。

 

日本がITAI分野といった新産業分野で地歩を固めることができるのかは分からない。しかし、日本が再び豊かになりたいのならば、付加価値の向上、それを生産性の向上で達成しなければ叶わない、というのが野口氏の結論である。

 

 

 

 

 

 

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