欧州はトランプとプーチンの取引にどう対応するのか? (2025/2/24)
トランプ大統領はウクライナでの戦争終結に向けてロシアと取引を開始した。未だ停戦条件は固まっていないが、彼の提案はロシアが占領した地域を認めることを前提としており、ロシアの意向に沿っている。
米ロ大統領会談の前哨戦が始まり、2月14日、米国副大統領のJ.D. バンスはミュンヘンの安全保障会議に出席した。ところがその会議で、彼は欧州の民主主義を痛烈に非難した。続く2月18日には、米国のマーコ・ルビオ国務長官とロシアのセルゲイ・ラブロフ外相がリヤドで会談し、ウクライナでの戦争の終結を議題として協議を行った。しかし、この協議は当事者であるウクライナそして欧州の頭越しに行われ、当然、無視されたウクライナからは大きな不満が出た。
それに輪を掛けるように、トランプ大統領はゼレンスキー大統領を独裁者と呼び、戒厳令下であるという状況を無視して直ぐさま大統領選挙を行うべきと発言した。
トランプ大統領がこの戦争を終わらせたいと思っていることは正しかろう、しかし、彼にはウクライナの安全保障と戦後復興をどうするのかという具体的考えが全くない。彼の頭の中には、目先の米国にとっての利益確保しかなく、欧州の安全保障や政治的安定は関心の埒外にある。
欧州にとってウクライナでの戦争がロシアの意図通り終結すれば、軍事力を回復した後、ウクライナだけでなくバルト三国やポーランドに対しても同様な侵略を繰り返す懸念がある。それを抑えるにはNATOの結束しかないが、トランプ大統領はウクライナ戦争への関心が低い(というよりも、これ以上金を出したくない)。さらに、彼は欧州への関与、とりわけNATOに対する軍事負担を下げたいと考えている。
一方、プーチン大統領には、西欧的民主主義は悪であり、かつてのソ連の覇権を取り戻したいという欲望がある。経済規模では韓国にも及ばないロシアが世界の覇権を主張できるのは、軍事力(核の保有)ゆえである。
欧州がロシアの軍事脅威に対抗できるのはNATOの枠組みである。もし、米国がそこから抜けるのであれば、中期的には欧州の軍備拡張しかない。米国の核の傘が無くなるのであれば、英国とフランスの核抑止力を再構築しなければならない。軍事費で言えば、欧州加盟国はトランプ大統領が発言したようにDGPの2%を目安としていた数字を4〜5%に上げることが必要になる1/。加盟国が防衛費を上げれば米国の離脱を回避できるかもしれないが、米国が欧州の安全を保証する担保はどこにもない。
エコノミスト誌によれば、欧州加盟国の新たな防衛費負担は年間3000億ユーロ(47兆円)に及ぶ2/。冷戦時代から続いたNATO体制を現在のロシアの軍事脅威に対抗させるには、抜本的な立て直しが必要である。しかし、欧州の要の一つである英国はEUから離脱し、EU内部ではドイツで極右勢力が台頭し3/、親露政権であるハンガリーや再軍備に後ろ向きなスペインがいる。NATO体制の再構築は簡単な話ではない。
欧州にとってロシアが引き起こしたウクライナ戦争は他人事ではない。一時的にウクライナ停戦が成立しても、10年後、20年後に、ロシアは再びその牙を剥くだろう。そうならないために、欧州はどのように腹を括るのであろうか。
1/
トランプ大統領は、1月7日、私邸「マールアラーゴ」での記者会見でNATO加盟国は防衛費として、第1次政権で言ったGDPの2%でなく5%を出すべきと発言した。(Bloomberg, January 8th 2025)
2/
The
Economist, February 20th 2025
3/
2月23日に行われた総選挙で、反移民・難民を訴える右翼「ドイツのための選択肢」(AfD)が得票率を倍増(20.8%)し第2党となった。第1党となったキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は得票率28.6%で4.4ポイント増、現ショルツ首相が率いる中道左派「社会民主党(SPD)」は得票率16.4%で9.3ポイント減となった。(朝日新聞電子版2025/2/24)