デジタル後進国 日本 (2025/9/13)
今朝の朝日新聞に「日本のAI国力、追いつけるか 政府、国内開発支援へ」と題した記事があった。
日本がAI分野で大きく遅れているという認識は今更の感がある。現実を見れば、世界のAI技術開発では米国と中国が圧倒的に先頭を走る。英独仏といった西欧諸国は必死で先頭を追いかけるが、日本の立ち位置は上位グループから周回遅れ、いや5〜6周遅れと言って良い。日本のAIへの民間投資額は米国の127分の1、中国の11分の1、英国の5分の1にすぎない/1(下図参照)。要するに、日本はこの分野に金を投じていない。英語で言えば「non-starter/2」。
現状、日本は米国で開発した技術に依存するしかない。誰でも気軽に使えるチャットGTPが登場したのは3年前、あっという間に利用が拡大した。そのお陰か、GPT-3.5モデルであれば無料で使える(私もちょっとした調べもので便利に使わせて頂いている)。

それだけ環境が整っても、日本のAIの利用率は欧米に比べて圧倒的に低い。生成AIの利用経験がある個人は日本が27%、一方中国が81%、米国が69%、ドイツが59%。企業で見ても、日本が55%に対して、米中独は90%である/3。
経済産業省の推計では、海外のデジタルサービス利用に伴う日本の赤字が、2030年度には原油の輸入額を超える10兆円に拡大するという/3。あと5年もすれば、米国の技術に依存しなければ経済が成り立たない「デジタル小作」の世界が現実になる。
チップ製造というハードウェアでも、システム開発の世界でも、日本の存在感はない。日本は技術先進国だと思っている日本人は多いが、それは幻想にすぎない。もの作りでは、もはや日本は中国に叶わないし、ICT/4システムでは米国が圧倒的に強い。
私は、そのようになったのは、過去30年間にわたる日本企業の経営に問題があったと思っている。1980年代後半に日本はDRAM/5で市場を席巻した。しかし、日本企業は思い切った投資ができず、韓国企業に市場を取られ、競争力を失い、破綻していった。
NECと日立製作所のDRAM製造部門を統合して作ったエルピーダ/6は倒産したが、それを買収したマイクロンはエルピーダの広島工場を立派に立て直した。つまりエルピーダの失敗原因は、日本人経営者にあった。
事業を再生したマイクロンは、広島工場で次世代半導体メモリの生産を目指し1兆5000億円を投資する。これに対して、経産省は最大5000億円を補助する/3。つまり経営者が変われば企業の行く末は大きく変わるということである。
日本の経営者の失敗には、傲りと自前主義(いわゆる日の丸何とやら)にある/6。投資もせず、新しい技術に目を向けてこなかった日本がデジタル分野の遅れを挽回することは難しかろう。であれば、つまらない自尊心を捨て、外国企業と協業することで、事業を興すしかない。それは別に屈辱でも何でもない。経済の合理性である。
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Stanford
University HAI, AI Index Report 2025
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〔やるべきことに〕取りかからない人、成功の見込みのない人、だめな人
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朝日デジタル 2025/9/13 5:00 a.m.
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Information
and Communication Technology
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Dynamic
Random Access Memoryの略。パソコンやスマートフォンなどのコンピューターの主記憶装置(メインメモリ)として広く利用される半導体メモリの一種。
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かつては世界第3位のメーカーであった。
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この手の失敗例は幾らでもある。三菱飛行機の三菱スペースジェットの頓挫、シャープの事業破綻、ジャパンディスプレイの凋落