世界の市場構造を変えつつある中国自動車メーカー (2025/2/16)

 

 

自動車ほど栄枯盛衰の激しい産業はないだろう。

 

先週、ホンダと日産の合併交渉が決裂した。かつてTN(トヨタ/日産)と呼ばれた時代があったが、日本の自動車業界に君臨した日産の姿は今やどこにもない。戦後の世界の自動車産業の興亡を振り返れば、今回の出来事は珍しくもない。

 

戦後、日本の自動車メーカーは主に欧州の自動車メーカーから設計・製造技術を導入した。日産はオースチンのノックダウンで乗用車を作り始めた。いすゞはヒルマン、日野はルノーの車を日本で作った。当時英国の自動車産業は世界の一角を占めていたが、純英国の自動車メーカーはもはや残っていない1/

 

日産の凋落の原因は明確である。大きな収益源であった中国では、現地メーカーが生産する電気自動車(EV2/車)にあれよあれよと言う間に市場を奪われた。同時に、値引きに終始した米国の事業も悪化し、投資資金さえ事欠くに至った。まさに事業経営に失敗したという一言に尽きる。

 

一方、つい10年ほど前は外国メーカーとの合弁で自国の自動車産業を育成していた中国では、中国メーカーが世界のリーダーとしての地位を確立し始めている。昨年EV車の販売数でBYDがテスラを抜いたことは記憶に新しいが、BYDのパワートレインはBEV3/だけではなくPHV4/を急速に延ばしている。2019年には僅か46万台の販売台数に過ぎなかったBYD2024年に427万台を達成し、これはホンダや日産を上回る数字である。BYDは今や世界の自動車産業をリードする企業となった。

 

BYDだけではない。チェリー(Chery, 奇瑞汽車)、ジーリー(Geely, 吉利汽車)、そしてSAIC(上海汽車集団)は世界の自動車輸出企業として、ドイツや日本を凌ぐトップグループに入った。

 

2024年の中国車の輸出台数は470万台、3年間で3倍に拡大した。ここの数字は2030年には730万台になると推定される5/。中国の自動車メーカーが輸出に力を入れる理由に、国内市場の急速な伸びが衰えてきたこと、そして過当競争から利益率が下がってきていることがある。

 

かつて外国のブランドを好んだ消費者がEV化の波で国内メーカーを選択するようになり、販売台数の4分の3を国内メーカーが占めるまでになった。つまり、中国の自動車メーカーは、トヨタやフォルクスワーゲンを打ち負かし、国内市場で勝利を収めたわけである

 

中国車の強みは低価格にあるが、政府の補助と政策誘導により急成長した国内生産は過剰となった。2024年の国内販売台数2300万台に対し、生産規模は4500万台である。工場の稼働率は60%とも見られる。過剰生産は価格競争をもたらし、そのはけ口を輸出に向けた。

 

ところが、欧州では中国製EVに対して関税を掛けたことで、輸出が難しくなった。米国ではバイデン政権が中国製EV100%の関税を掛け、市場は塞がれた。その結果、中国メーカーは市場を先進国から途上国へと方向転換した。つい数年前まではシェアのなかった中東で今や8%、アフリカで6%、東南アジアで4%の市場を確保した。ただし、これらの市場ではEVのシェアは未だ小さく、中国メーカーも内燃エンジン車を売っている。しかし、彼らの長期的な狙いはEVである。

 

EV事情が異なるのはラテンアメリカである。すでにEVのシェアは6%になっている。ブラジルのEVシェアは7%、その9割は中国製である。そしてメキシコのEVシェアは8%、タイは15%を占める。

 

現状で中国車の最大の輸出先はロシアである。これはウクライナ戦争により、欧米が制裁を加えた結果である。2021年の中国車のシェアは9%に過ぎなかったが、2023年には61%と市場を席巻した(そのほとんどは内燃エンジン車であり、EVは限られる)。

 

すでに中国メーカーは輸入関税を避けるために海外生産を計画しつつある。BYDは既にタイとウズベキスタンに工場を持ち、ブラジル、ハンガリー、インドネシア、そしておそらくメキシコ6/でも工場建設を目論む。長城汽車(Great Wall)と上海汽車も海外に工場を持っている。シティーグループは中国メーカーが2030年までに250万台を海外生産すると推定し、その多くは欧州と途上国になるだろう。

 

2020年代後半には、世界の自動車業界の勢力地図が大きく変わっていくことを疑う余地はない。日産やホンダばかりでなく、安泰に見えるトヨタですらこの5年間で市場構造が大きく変わり、そして業界の興亡を掛ける時代になることを理解している。

 

 

 

 

1/     プレミアムカーの最高峰にあるロールスロイスはドイツのBMW、ベントレーはフォルクスワーゲンがブランドを買い取った。同様にジャガーとランドローバーはインドのタタ・モーターズが所有する。スポーツカーのブランドとして有名であったMG(エムジー,モーリスガレージの頭文字)は中国の上海汽車が買収した。

2/     Electric Vehicle

3/     Battery Electric Vehicle

4/     Plug-in hybrid

5/     Citigroup推計 (The Economist, February 13th 2025)

6/     トランプ大統領がメキシコに25%の関税を掛けると発言したことで、メキシコ工場の建設は不透明になった。(The Wall Street Journal2024.11.26

 

 

 

 

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