日産とホンダの経営統合 (2024/12/19)
両社の企業文化は大きく異なり、私は果たして経営統合はどうなのだろうかと思っていたが、すでに電気自動車(EV)分野での協力を進めるという話は出ていたので、それほど大きな驚きにはならなかった。統合発表の場で、ホンダの社長は言葉を選んだが、この統合に日産の救済という意味合いがあることは否定できない。
40年前の日産はトヨタと並ぶ日本の自動車業界の双璧であったが、その後の業績は凋落を辿った。基本的には経営に問題がありすぎた。1970年代から1980年央までは労働組合が経営に介入し、経営者はまともな経営が出来ていなかった。組合問題が片付いた後は、無謀な海外投資、そして販売戦略もないまま売れない車のモデルチェンジを繰り返し、ついには倒産寸前に至った。
1999年にルノーと資本提携をすることで、日産はこの危機を乗り越えた。日産に派遣されたカルロス・ゴーンは辣腕を振るって業績をV字回復させたが、彼は長期にわたって独裁的な経営と会社の私物化に走り、ついには背任行為を問われ、海外逃亡した。そして日産は、ゴーンの拡大路線の歪みが噴き出したことで、生産設備の余剰と過剰在庫を抱えた。その後も、日産の経営陣は問題を解決できないまま無駄に時が過ぎた。遂には、今年度第1四半期の純利益が対前年同期比で94%減という惨めな結果となった。
今の日産には売れる車がなく、技術、とりわけ直近でのハイブリッド車やEV車の技術開発に投資する金もない。つまり、商品も、技術も、資金もない状況にある。
自動車産業は莫大な投資が必要であり、規模の経済を追求できなければ生き残ることが難しい。今後、自動車の心臓部であるエンジン、すなわち内燃機関がバッテリーと電気モーターに置き換わるという時代の流れに逆らうことはできない。100年に一度と言われる構造変化が起きている。果たして、日産とホンダの経営統合が上手く行くかどうかはわからないが、日産単独で生き延びることはもはや不可能で、どこかと手を結ばざるを得ない。
ホンダにとって、日産の救済は目的ではない。経営統合は規模の経済を追求するための手段であり、車台、バッテリー、電動アクスル、そして電動化のためのソフトウェアを共用することでコスト削減を図ることである。
よく言われるように、これからのEVは走るスマホに変わる。車の付加価値はハードウェアより車を制御するソフトウェアで決まる。テスラやBYDはコスト競争力とソフトの技術で在来の自動車メーカーを凌ぐ。その結果は、直近の業績に表れた(図参照)。
10年後の世界の自動車業界地図がどうなっているかわからない。
テスラを抜いてEV車トップに躍り出たBYDは、そもそもは電池メーカーである。2003年にBYDオートを設立、2008年にトヨタとホンダのデザインを模倣したプラグインハイブリッド車を量産し、本格的に自動車業界に参入した。販売台数は今年7〜9月の四半期ベースで初めて100万台を超え、米フォード・モーターを抜いて世界6位に浮上した。この時点で、ホンダは8位、日産は10位にとどまる。両社に挟まれる9位には中国の浙江吉利控股集団(ジーリー)が入り込んだ1/。さらに、ファーウェイやシャオミーといったスマホメーカーが市場参入している。
日産とホンダが経営統合を発表した裏には、台湾の電子機器受託製造サービス大手の鴻海(ホンハイ)精密工業が日産への出資を打診したことがあったと言われる2/。既に鴻海は台湾車大手・裕隆(ユーロン)集団のブランドでEV車を販売している3/。日産は鴻海の経営介入を嫌ったようであるが、鴻海の経営判断は早く、鴻海の経営参加は日産の再生には良いのかも知れないと、私は思っている(カルロス・ゴーンは長期政権の末に汚点を残したが、潰れかけた日産をV字回復させた事は事実であり、ルノーの救済がなければ、あの時点で日産は倒産していた)。
自動車産業の歴史は栄枯盛衰の歴史である。私が若かった頃は、米国のビッグ3が圧倒的な規模と強さを誇っていた。しかし、今やビッグ3は死語となり、トヨタ、フォルクスワーゲン、ヒュンダイが業界のトップ3である。次の10年後、20年後の業界がどうなっているのか誰にも予想できない。
1/
日本経済新聞ウェブ版 2024.11.29
2/
日本経済新聞ウェブ版 2024.12.19
3/
日本経済新聞ウェブ版 2024.5.24